「義経」でふれる中世の芸能

物語のカギを握る笛

今回のドラマは笛が重要な役割を果たす。幼い義経が鞍馬寺に預けられるとき、母・常盤が自分と対の笛を形見代わりに渡し、それが会うことのかなわぬ母と子の絆となるのだ。この笛について、千葉大学で芸能史を教える橋本裕之先生は、次のように述べる。 「平安末期から鎌倉に入るこの時代の音曲は、雅楽の旋律が基本でした。そこで、雅楽に使われる龍笛を常盤や義経の笛に採用しました」 義経と常盤が吹く笛のシーンの音曲を作曲したのは音楽家の稲葉明徳さん。この曲のイメージについて稲葉さんは語る。「義経の笛の音は母を想う心を象徴しています。しかし雅楽では本来感情を出してはいけないのでその心を表現できません。そこで雅楽の音曲を損なわないようにしながら、そこに少しだけ切なさを加えて作曲しました。一方常盤の音曲は神楽から特に一般の人があまり知り得ない秘曲の旋律を選びました。源義朝、平清盛の愛妾ですから、神秘的な旋律も知っていただろうと考えたからです」切ないふたつの笛の音に魅了されること間違いなしのようである。

複雑な旋律なき音曲を奏でる琴

琴も笛同様、印象的な場面に登場する。平家から天皇家に入内し、安徳天皇を産んだ清盛の娘・徳子。第4回では彼女が琴を弾くシーンがあるが、ここに登場する琴は私たちがイメージするものとは少し違うらしい。「私たちに親しみのある、生田流や山田流の琴は江戸時代以降の奏法です。しかし義経の時代のことは6絃の手やヘラで弾く和琴か、渡来物で8〜13絃の竹や木のツメで弾く楽筝でした。いずれも複雑な旋律のある音曲は演奏せず、ポロロンと音を鳴らすのが特徴です。徳子の場合、平家の娘であること、さらに周囲に琴の名手で知られる小督の局がいたこともあって、最先端で華やかな楽筝だろうと判断し、ドラマでもそれを使っています。また第4回の音曲は、稲葉さんが雅楽の中でも華やかで美しい『越殿楽の残楽三辺』を採用しました」(橋本先生)

NHKタイガドラマストーリー「義経」より NHK出版 雑誌69233-41 定価1,000円